私たちは、超低温のイッテルビウム(Yb)-リチウム(Li)原子混合系を作り出すことに成功しています。
超低温原子の混合系の先行研究が、主にアルカリ原子対を用いて行われているのに対し、
私たちがYb原子とLi原子の組み合わせに着目したのは、いくつかの理由があります。
まず、Yb原子はアルカリ土類型電子配置を持つ原子であり、
一方、Li原子は、アルカリ原子でありますので、YbLiという分子を作った場合、
基底状態には電子スピンが存在することになります。
これは、アルカリ原子対を用いて作った分子にはないユニークな特徴です。
実際、これを用いて、ハイゼンベルグ模型や、イジング模型といった、
量子スピン系の強力なシミュレーションができる、という理論提案があります。
また、Yb原子は質量が大きく、一方、Li原子は質量が小さい、という特徴があります。
この質量比が大きいということを利用して、高度に制御された状態で、
不純物系を研究することができる理想的な系であるということが、最近注目を集めています。
Yb原子は固体中に局在する不純物、Li原子は固体中の電子に類似しており、
高温超伝導やアンダーソン局在等の量子シミュレーションへの応用が期待できる、というわけです。
こうした実験の、具体的な手順は以下の通りです。
まず、Yb原子とLi原子を同時にレーザー冷却・捕獲します。
各原子の冷却に必要な光を重ねて入射することで、両方の原子を捕獲します。
光トラップに移行し、トラップのポテンシャルを浅くすることでさらに冷却(蒸発冷却)します。
蒸発冷却により、Yb原子のボースアインシュタイン凝縮とLi原子のフェルミ縮退を同時に実現することに成功しました。
そして、光格子ポテンシャルを立ち上げ、原子をロードします。
局在する不純物を含んだ系の量子シミュレーション等の様々な実験を行います。