高分解能レーザー分光による近距離重力検証 ― レーザー冷却原子の基礎物理へのユニークな応用
質量をもった二つの物体の間に働く重力の研究は、極めて基本的な課題であり、
その逆自乗則を検証する実験は、過去から現在にいたるまで、高精度に行われてきました。
天体の振る舞いからは1015mレベルの天文学的な距離について、
地上での縦穴、湖、塔などでの実験からは105mレベルの距離について、
またねじれ秤の実験室内での実験から1mから数cm程度の距離について、
さらに最近はカシミール力の測定などから10ミクロン程度の距離について、
それぞれ非常に高精度な測定が行われてきており、
逆自乗則がよい精度で成立していることが確認されています。
一方、近年、4つの力の中で重力だけが極端に弱いという階層性問題が
余剰次元の存在などで説明できる可能性が指摘され大変注目を浴び、
またいわゆる宇宙項問題とも関連して、これが微小距離での重力の逆自乗則の破れとして現れることが指摘され、
世界的に大変注目されています。
現在、国内外で重力の逆自乗則の補正項の検証を目指した実験が計画されています。
こうした状況のもと、私たちは重力を専門とする研究者との議論を積み重ね、
今回、超低温に冷却されたボース・アインシュタイン凝縮体の高度な制御性に立脚した
全く新しいアイデアに基づく独自のアプローチを着想し、これにより、これまで研究することが非常に困難であった、
ナノメータースケールでの重力の逆自乗則に対する補正項を高精度に測定することを計画しました。
まず、光格子の各格子点に、ほとんど温度ゼロまで冷却された原子を二つずつ用意します。
次に、高度に安定化されたレーザー光を用いることにより、
その原子間の“分子”結合エネルギーを非常に高分解能で測定します。
このような測定を様々な束縛状態で行うことにで、原子間相互作用を高精度に決定することが可能になります。
質量の異なる複数の同位体に対して系統的に精密測定を繰り返し、結果を比較することにより、
質量に依存した力に対する情報を得ることができます。
重力測定としては、質量の大きな「マクロ」な物体を用いることが基本であるが、
これをあえて採用せず、「ミクロ」な物体である原子について、その超精密測定を通して、
微小距離での重力の逆自乗則の破れの問題にアプローチしようというもので、発想の転換です。
本研究のアイデアは、まさに最先端技術の可能性から出てきたものです。
もし、有限値が観測されれば、基礎物理学へのインパクトは計り知れないのは言うまでもありません。