Research
Title img
スピンの量子非破壊測定 ― ファラデー回転でスピンの量子揺らぎを観測・制御する
  量子力学的にふるまうスピンには、不確定性関係に由来する「量子揺らぎ」が存在します。 揺らぎの大きさは非常に小さいものですが、精密測定技術の進展に伴って、昨今ではその影響が懸念されるようになってきました。 量子的な測定の持つ重要な特徴は、測定の対象を変化させてしまうことです。 通常の測定によってたとえある瞬間のスピンの向きが分かったとしても、 測定後の状態は、測定前と同じ量子揺らぎを持った別の状態になってしまいます。 これが、量子系を制御する上での根本的な障害です。 量子測定が測定対象に影響を及ぼすことは避けられません。 しかし、測定される量の共役量にその影響を押し付けてしまうことなら可能です。 この測定手法は、量子非破壊測定と呼ばれています。 量子非破壊測定とフィードバックによる制御は、 これまで扱いの難しかった量子系に古典系と同様の制御性をもたらすことが期待される新しい技術です。 私たちは、この量子フィードバック制御の実証に世界ではじめて成功しました。 量子非破壊測定は測定量を変化させない測定です。 連続した2回の量子非破壊測定を行うと、その結果には相関が認められるだろうと期待されます。 これは、量子非破壊測定と通常の測定とを区別する、重要な性質です。 冷却171Yb 原子に対する量子非破壊測定の結果を散布図にまとめたものが左下図です。 点の密度が色で表現されています。 通常の測定に相当する左側の散布図と比較して、量子非破壊測定に相当する右側の散布図には、正の相関が認められます。 これは、量子非破壊測定によって量子限界で観測された相関です。 量子非破壊測定で得られた測定値を利用して、量子揺らぎが小さくなるように、スピン系の状態を操作した実験の結果が右下図です。 縦軸のゼロは、元の状態が持っていた量子揺らぎの大きさに対応します。 フィードバックの強さを大きくしていくことで、量子揺らぎが元の大きさより小さくなっていく様子がわかります。 これまでは、このような量子力学的な制御のためには、人間が測定を行わなくとも自動的に制御されるような、 用途が限定された特別な機能素子が必要でした。 私たちが示した結果は、そのような既存の枠組みを大きく超えた新しい制御の可能性を切り拓くものです。
  • image
  • image