Research
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リドベルグ原子による量子コンピュータ ― 万能量子計算を目指して

近年GoogleやIBMといった巨大テクノロジー企業が量子コンピュータの開発に力を入れ、それらの成果が大きな注目を集めています。 現在はGoogleに代表される超伝導量子コンピュータが特に有名ですが、私達の研究対象である冷却中性原子を用いた量子計算にも関心が高まっており、 特に「リドベルグ状態」と「アレイ型光トラップ」をキーワードに著しい進展を見せています。

リドベルグ状態とは、原子核周りの電子が主量子数の大きな高エネルギーの電子軌道を飛んでいる状態を指し、この状態においては電子軌道の大きさが、 典型的には100nm~1umといったスケールになります(基底状態の原子の大きさは1Å=0.1nmほど)。このようなリドベルグ状態にある原子間には、 その巨大な電子軌道に起因して、数umといった長距離間にも働く相互作用が生じます。これは光学的に十分分離可能な距離です。

このリドベルグ状態と併せて注目を集めているのが、「アレイ型光トラップ」という技術です。1um程度の非常に小さく絞られた光を図のように複数並べた(アレイ) 非常にシンプルなもので、この絞られた光の一つ一つに原子を一つだけ捕まえることが可能です。この光の配置は自在に変えることができ、 これと上述のリドベルグ状態を組み合わせることで、非常に豊かな自由度を持つ制御可能な量子多体系のエンジニアリングが可能となります。

私達は、これらの技術に加えて、2電子原子であるイッテルビウムの利点を生かした実験系を構築しています。アルカリ原子のように最外殻電子が一つしかない 場合と違い、2つ電子があることで、一つが高エネルギー軌道に励起されても、一つは通常の低エネルギー軌道に残ることになります。 この残った電子により、アルカリ原子では実現されていないリドベルグ状態の光トラップや、フォトンによる検出といった光学的操作が可能になると考えられます。

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