私たちのグループは光格子中の冷却原子を用いて軌道自由度をもつ量子多体系の研究を行っています。 イッテルビウム (Yb)のようなアルカリ土類様原子は基底状態1S0に加え準安定状態3P0、3P2が存在することから、 軌道自由度をもつ量子シミュレータのプラットフォームとして近年盛んに研究されています。 私たちは図のように電子状態によってポテンシャル深さが異なる光格子中に1S0状態、3P0状態のYb原子を導入して、 単一バンドのハバードモデルを超えた、新奇な量子シミュレータの開発を進めています。
私たちの研究課題の一つに近藤効果の量子シミュレーションがあります。近藤効果とは伝導電子と磁気局在不純物との間の反強磁性的スピン交換相互作用 により生じる量子多体効果であり、元々は磁性合金中の電気抵抗が温度を下げると増加する現象として研究されていましたが、 現在では凝縮系物理学における中心的な問題となっています。また、近藤格子模型と呼ばれる局在スピンが周期的に並ぶ模型には近藤遮蔽による 無秩序相とRKKY相関が発達した秩序相が存在し、それらの間に存在する量子臨界点近傍には豊富な磁気量子相が存在すると期待されています。
これまで私たちはYbのフェルミ同位体である171Ybの2軌道間相互作用エネルギーを測定し、171Ybの2軌道間スピン交換相互作用が反強磁性的であることを 見出しました(K. Ono et al., PRA (2019))。この結果は171Ybを用いた2軌道系が近藤効果に関わる物理ための量子シミュレータとして非常に有望であることを示唆しています。