「量子エレクトロニクス」は原子や分子などの量子媒質系と電磁場との相互作用を研究・応用する分野の総称です。特に本課題演習では、レーザー光を用いて気体原子をマイクロケルビンの領域まで冷却する「レーザー冷却」の技術、さらにその応用として実現する「ボース・アインシュタイン凝縮(BEC)」と呼ばれる量子的な相転移現象について、セミナーと実習を通して学びます。
気体原子系のBECは1995年に初めてE. A. Cornell、W. Ketterle、C. E. Wiemanの3氏によって実現され、そのわずか6年後の2001年にはノーベル物理学賞が与えられています。この異例とも言える受賞までの期間の短さから、この系の物理的な重要性の高さを伺い知ることができます。現在、レーザー冷却及びBECは、様々な物理量の精密測定や物性物理学の研究ツールとなっており、当研究室を始めとする世界中のグループで応用が進められています。本課題演習はそんな最先端の実験技術に直に触れることのできる絶好の機会といえるでしょう。
基本的には、半年間の演習期間を前後半の2つに分け、前半でセミナーを、後半で実習を行います。また、学期末に発表会を行うとともに、学習した内容と実験結果をレポートにまとめていただきます。
セミナーは、毎回担当者を決めて教科書を予習、発表してもらうゼミ形式で行います。最近は、以下に挙げる教科書から一部を抜粋して行っています。
内容:光学の基礎(電磁場、偏光、反射・屈折)、光学素子
●「レーザー物理入門」 著:霜田光一 (岩波書店)内容:光ビームの伝搬
●「Atomic Physics」 著:C. J. Foot (Oxford University Press)内容:原子の構造、2準位系と電磁場の相互作用、レーザー冷却、BEC
実習では、実際の実験装置を用いて、アルカリ原子の1つであるルビジウム(Rb)のレーザー冷却およびBEC生成を行います。セミナーで学習した内容を実際に体験することはもちろん、レーザー光源や光学素子などの実験装置の取り扱い方から、原子集団の観測方法、温度や原子数密度などの物理量の測定方法など、冷却原子を研究するための様々な基礎技術を身につけることを目的とします。